謙譲語戦争 -- 自分の動作につける「お/ご」について

謙譲語戦争 -- 自分の動作につける「お/ご」について

プレーリー

自分の動作への「お/ご」は多くの場合問題ない、と主張したい

きっかけは数年前。
超ブラック企業に勤めていた際、「参ります」という表現について上司から
「自分の動作に敬語を使うのはおかしい」という怒られ方をしたこと。
もちろんこの指摘自体は完全に問題外で、その上司の国語力が極端に低いというだけ。

ただ、この出来事から気付いたことがひとつ。
敬語には正解・不正解のガイドラインはあるものの、最終的には受け手がどう思うかの問題。
ルール上では問題なくても、受け取る相手が誤りだと思ったり不快だと思ったりすればそれまで。
相手やシチュエーションに合わせての使い分けが大切で、はっきりとした正解は無いのが難しい。
丁寧なつもりで慇懃無礼だと思われてしまう、ということはよくある話。
  ※さすがに元上司のように謙譲語の存在すら知らない相手は考慮しなくて良いとは思う

この一件以降、仕事中のメール、特に外部に送るものに関しては、
言葉遣い・表現の正しさの他、誤りだと思っている人がどのくらいいるのかも含めググって確認する癖がついている。

そうしている中、とても気になることが。
「お/ご 〜 する/いたす」という謙譲語について
「自分の動作に お/ご をつけているので誤り」と考えている人が結構多いこと。
質問サイトで「自分の動作の お/ご はNG」という結論に至ってたり、
転職支援サイトにすらもっともらしくデタラメなことが書いてあったり…
これは由々しき自体。
間違っていない言葉を使っているのに間違った言葉を使っている人だと思われてしまうようなこと減らすため、
「お/ご」の使い方について正しい認識を少しでも広めたい。
なので、ごく基本的なことを整理してみる。

※以下の話の中で、参考にしているガイドラインはこれ。

「ご回答いたします」について

仕事でよく使う表現で、違和感を感じる人が多い(らしい)表現、
「ご回答いたします」というを例に挙げる。

これは、「ご 〜 いたす」という何の問題もない謙譲語のはず。
なのにやたらとNG扱いされることが多い。

よくある NG 扱いの理由は以下のような感じ。

  ・自分の動作に「ご」をつけているからNG
    →後述の理由により問題ない

  ・動詞の「ご/お 〜 する/いたす」はOKだが「回答」は名詞なのでNG
    →「回答(名詞) + する(動詞)」ではなく
        「回答する」で一つのサ行変格差活用の動詞なのでこの理屈はそもそも成り立たない
         なお自分側の「ご/お + 名詞」もNGにならない場合もある(後述)

ネットで調べていて一番脱力したのは以下の転職支援サイトの記事。


---- 引用ここから ----

「ご回答」を敬語として利用する場合は、「ご回答申し上げます」というのが正しい使い方となります。
なので、それ以外の使い方はおかしいと思われてしまいますので注意してください。
「申し上げます」は、「致します」の敬語表現となりますので、こちらの方がへりくだったいい方をすることとなります。
間違った使い方をしないためにも、「ご回答」の後には「申し上げます」という形をすることが一般的です。

---- 引用ここまで ----

色々変なのでツッコミが追いつかない。
言うまでもないが「いたす」は「する」の謙譲語、「申し上げる」は「言う」の謙譲語なので全くの別物。
"「申し上げます」は、「致します」の敬語表現となります"という理屈はよく分からん。
そもそも"敬語表現"って何?
両方正しい謙譲語だけど、「申し上げます」のほうが丁寧な印象を与える、
というのであれば理解はできる。

個人が質問サイトとかで間違ったことを書くのは仕方ないけど、
転職支援の会社がこんなデタラメな記事を載せるのってどうなんでしょう。

基本的なルールまとめ

はっきりさせたいのは、「お/ご」という接頭辞は状況により
尊敬語、謙譲語、美化語と変幻自在に意味合いが変わるものであること。
適切な表現かどうかは分からんが、
ある意味ワイルドカードのように便利な表現であり、
決して尊敬語にのみ使うものではない。

(例)
  ・ご住所  …  尊敬語
  ・お持ちする … 謙譲語
  ・ご飯  …  美化語

便利ではあるけど、使い方には要注意。

(例)
  ・「お金」、「お札」 とは言うが 「お小銭」 という言葉は一般的ではない
  ・「お/ご 〜 になる」は尊敬語、「お/ご 〜 する」は謙譲語(間違えると失礼なので要注意)

謙譲語・美化語としても使えるものの、
自分の動作や事柄につけるのがNGという場合も存在する。

(例)
  ・私のご住所 … 尊敬語になってしまっているのでNG

このへんについて、上の敬語の指針にもQ&Aがある。

---- 引用ここから ----

自分のことに「お」や「御」を付けてはいけないと習ったような気がするが 
「お待ちしています」や「御説明をしたいのですが」などと言うときに,
自分の動作なのに 「お」や「御」を付けるのは,おかしくないのだろうか。 
これは,どう考えれば良いのだろうか。 

【解説】
自分側の動作やものごとなどにも 「お」や「御」を付けることはある。
自分の動作やものごとでも,それが<向かう先>を立てる場合であれば,
謙譲語Ⅰとして, 「(先生を)お待ちする 」「(山田さんに)御説明をしたい 」など
 「お」や「御」を付けることには全く問題がない。
また「私のお菓子」など,美化語として用いる場合もある。
 「お」や「御」を自分のことに付けてはいけないのは,例えば 「私のお考え」 「私の御旅行」など,
自分側の動作やものごとを立ててしまう場合である。
この場合は, 結果として,自分側に尊敬語を用いてしまう誤用となる。

---- 引用ここまで ----

ごく簡単にまとめると、
基本的にOKだけど尊敬語にしかなりえないような表現になってしまえばNG、ということ。
厄介なのは、自分に対する尊敬語になるのか美化語になるのかは、明確な基準がないこと。
むずかしい。

また、文化庁 敬語の指針の内容についても、完全に鵜呑みにできないケースがありそう。
「お食べする」という形は作ることができないとあるが、
以下のようなケースでは使えないこともないのではないか、とか。

食べ残しは別料金を請求されるビュッフェ形式のレストランにて
  上司「しまった、つい取り過ぎてしまったけど食べきれない」
  部下「お食べします!!」
ならギリギリOKでない?

まとめ

 ・自分の動作への「お/ご」接頭辞は、一部のNG事例を除けば基本的にOK
 ・他人の敬語が変だと思うことがあったら、とりあえず「文化庁 敬語の指針」を確認してみよう

どんな言葉を使うにせよ、一番大切なのは相手に対する敬意だと思う。
日本語って細かいことをいちいち気にしなくちゃいけない非効率的な言語だけど、
相手への敬意を表現する方法が幅広いのはすごく良い所だと思う。

1 件のコメント :

  1. 回答いたします、(ご)回答を申し上げます
    無難なのが御回答申し上げます。なのかも知れません。

    「回答する」を謙譲語にする時は自身の動作なので、御はつけない。
    ただし回答するを相手に及ぶ動作と考えるなら御を付けた方がいいとも考えられる。
    →人によって捉え方が異なり、人によっては失礼と感じる可能性がある。

    ご回答申し上げますは
    (質問に対する)回答を言う
    から、
    ご回答(美化語)を申し上げます(謙譲語)
    縮めて
    ご回答申し上げます
    なら誤解の余地がない(?)
    (この場合の御は美化語の御なのでなくても御用ではないけども。)

    返信削除